治験集

臨床例

1.【ぎっくり腰】

症例:○本○子。女性、1953年生、61歳
初診:2015.5.4(月)18:00 (二之気)
主訴:腰痛(所謂ぎっくり腰)

問診:朝、車庫のシャッターを開けようとしたらそのまま腰が動かなくなってしまい、
   腰が真っ直ぐ伸びない。今まで腰痛というものは全くなかった。
   既往歴もなく、ストレッチを自己流で週三回、月に一度10キロ歩く等、
   健康にも気を使って生活している。診察しようにも、仰向けになることが出来ず、
   ベッドの上で左下にして横になっているのが精一杯。

治療:腎の病症として治療。

   少衝(-)、内庭(-)、太白(-)、通谷(-)、
   湧泉(G)~然谷(S)、太谿(G)~飛陽(S)、豊隆(全部右だけ)

   うつ伏せで患部に施灸(灸点紙) 終了。

   「次はいつ来たらよいか?」というので、
   「三日ぐらい様子をみてから、連絡して下さい」と言って帰した。

経過:5.9(土)に二回目の来院。治療後三日目(5.7)には全快したとのこと。
   この日はハイヒールを履いて来た。


2.【甲状腺眼症】

症例:○里○子。女性、1941年生、74歳
初診:2015.7.27(月)10:00(四之気)
主訴:甲状腺眼症

症状:甲状腺ホルモンの異常により、眼の周りの筋肉が硬くなり動きが悪くなる。
   眼球は左右には動くが、右目の上下の動きが悪い。その為に物が二重に見えて困っている。

治療:肝の病症として治療。

   隠白(-)、三間(-)、経渠(-)、足臨泣(-)、
   行間(G)~太衝(S)、太衝(G)~光明(S)、条口(両側)
   章門(+)、肺兪(+)、肝兪(+)、右手中指の大骨空に施灸。

経過:発病して半年以上経っているので、長期の治療が必要であり、慌てて毎日治療しても簡単に
   良くなる病気ではないので、週一回のペースで三ヵ月から半年治療して様子をみましょう
   ということで、治療を始めた。

ところが、三回目の治療が終わった時点で今まで二つに見えていた物が、一つになったというのです。
こんな難病が三回の治療でそんなに簡単に目が動くようになるのかと思い、驚いているところです。

確認するとわずかではありますが、右目が上の方に動くようになっていました。引き続き治療を継続中です。


3.【椎間板ヘルニア】

症例:○藤○志。男性、1988年生、26歳
初診:2015.9.11(金)11:15(四之気)
主訴:腰痛(椎間板ヘルニア、第5腰椎)

症状:左足のふくらはぎから小指までの痺れ。

   農業を生業とし、普段から腰には無理をかけている。
   昨年秋より腰痛を発症したが、そのまま仕事をしていた。
   そして今年の7月、村のお祭りがあり、その準備中に重い物を持ち上げた拍子に
   動けなくなってしまった。病院で診察の結果、椎間板ヘルニアと診断され、
   安静の指示とシップ薬をもらい、現在に至る。
   動くと腰が痛いので仕事を休んで実家で養生している。

治療:診察の結果、厥陰心包の病症とみて治療

   隠白(-)、陽池(-)、間使(-)、三間(-)、中衝(G)~大陵(S)

   膀胱経の痺れを取るのに、腎経を使う(病が慢性化して長い為)。

   湧泉(G)~復留(S)、患部に施灸。

経過:来院時は足を引きずっていたが、帰る時、引きずりは消失していた。

   週一の治療を四回やって完治した、期間は三週間。


4.【小脳石灰症】

症例:○川○子(女) 大正9年生まれ(75歳)
初診:1995.12.12(火)(終之気)
主訴:手がしびれる、足が思うようにスムーズに動かない。(小脳石灰症)

(お嫁さんに担がれて引きずられるようにして来院。話を良く聞くと、小脳に石灰が付着しており、 病院では手の施しようがない、とのこと。一年ぐらいで寝たきりになるから、そうなったら病院に連れて来なさい、 と言われた、とのことでした。この患者さんは娘の頃、リュウマチに罹ったがお灸で完治した経験があった。
これはもうお灸しかない、ということで来院したのであった。)

診断:五蔵全部に反応があり、本人の希望も有り、お灸での治療を行なう。

治療:肺兪、肩井、膏肓、膈兪、腎兪、志室、大腸兪、中脘、関元、天枢、三里(手足)、百会。

経過:
以上の治療を週一のペースで続けた。尚、家でお腹と手足のお灸を毎日続けるよう指示した。 三ヵ月経っても何の変化もなかった。こちらは開業したばかりで焦っていたが、○川さんの強い意志で通い続けた。

自宅でのお灸も頑張って続けていた。そうすると三ヵ月を過ぎた頃に、それまでお嫁さんと一緒に来ていた
川さんが一人でひょっこりと鍼灸院にやって来た。突然一人で歩ける様になった、というのである。
それ以降、週一のペースで六年間通い続けてほぼ完治した。
定期的に病院にも通院していたが、いつまでたっても一人で病院に行くものだから、先生が目を丸くしていた、 と嬉しそうに話してくれました。

その後、街で散歩している○川さんを見かけていた。それはほぼ十年続いた。
90歳を目前に亡くなったことをお嫁さんがわざわざ知らせに来てくれました。


5.【統合失調症】

症例:○崎○次(男) 昭和48年生(23歳)
初診:1996.3.22(金)
主訴:統合失調症。

発病のきっかけは大学受験失敗(二浪)と失恋が原因らしい。不眠症から始まり二年前に一度半年間入院した。 退院後は服薬しながら月二回の通院をしているが回復の兆しはない。
鍼灸院に来るきっかけは、祖父(佐賀在住)が鍼灸師であり、これはもう鍼灸で治すしかない、との助言を受け 母親と一緒に来院した。

診断:
肺と肝と脾に反応が見られた。特に脾の反応が著明であった。
『素問』陽明脈解篇第30の記述に見られる様に、陽明胃経の病による精神異常の記述は、
現代の統合失調症と同じ症状である。まさに体にその反応が出ているわけである。

治療:脾経と胃経を使った配穴を中心として組み立てた。

経過:
以上の治療を週一のペースで続けた。
最初治療院に入って来る時も荒々しく、靴も脱いだ通りに配置され、
治療中も一方的にしゃべりっぱなしであった。話の内容は音楽と野球カードの話のみ。

三ヵ月程した時に突然、靴を脱いで揃える様になった。そして会話もお互いの話が通じる様になった。
不眠が段々解消され、なるべく薬に頼らない様に話をした。
そうして一年半程した頃、母親が通院する様になった。
一年前に交通事故で足にケガをして、近くの整形や接骨院で治療しているがよくならないというのである。
治療しながら子供のことを話ながら、母親とも子供の病気について共有することが出来た。

それから統合失調症の症状はどんどん良くなり、ついには二年半で薬が完全に抜けた。
それから半年後治療を終了した。完治である。

その後、彼はIT関連の会社に就職。15年間再発はしていない。
治療終了後、母親が挨拶にきた。同じ病気を持った子供を通じて知り合った友人の話や
精神病院に通っている同じ人たちを見ても、自分の子供の回復は奇跡的である、というのである。
正直、こんなに良くなるとは思っていなかった、と話された。
いやいや私もこんなに良くなるとは思いませんでしたと言って二人で笑った。


6.【乳がん】

症例:女性、昭和18年生(72歳)
初診:2015・8・19(水曜日) 
主訴:乳がん

経緯:
今年(2015年)四月に温泉に行って、胸のしこりに気付いた。
七月に病院に行くと、ステージⅡの浸潤癌と診断される(7月29日)。
脂肪肝と胆石があるが治療をする程ではなく、経過観察との事である。今まで大病もなく、元気に暮らしてきた。職業夫人として働きずめでそれなりに体には気を付け、整体に二十年程定期的に通っている。
手術はしたくないとの強い意思で当院に来院。触診すると左胸の左上部にはっきりとしたしこりがあった。

診察:八虚診:左の肺に反応。
   𦜝傍診:脾・胃の所に反応。
   腹 診:腎に反応。

治療:季節は四之気である。診察の結果、時邪は湿邪であり、病藏は肺とみて、治療を組み立てた。

   鍼:隠白(-)後谿(-)霊道(-)三間(-)
     尺沢(G)~太淵(S)導通、太淵(G)~偏歴(S)導通、上巨虚(-)
   灸:左胸のしこりに三か所施灸。背中は肺兪、痞根、左天宗に施灸。

   以上で初回の治療を終えた。

二診:2015・8・22(土曜日)2時半
経過:近藤誠先生の診察を受けてきたとのこと。手術は受けなくても良いと言われたと喜んでいた。
診察:𦜝傍診:脾、肺、腎の反応が固まって出ている。腹診の腎の部分は反応が消失していた。
治療:鍼は初診と同じ。
   灸は左胸のしこりの反応が異動していたので、反応を追いかけてやはり三か所に施灸。
   背中の施灸も初診と同じ。

週一回のペースで治療を続けた。来院のたび、その時々の時邪を抜き、左胸の反応もその都度変わっているので、硬さや圧痛を頼りに施灸を続けた。

二十診:2015・12・9(水曜日)12時半
経過:左胸の灸痕から膿と血が出たとのこと。その後しこりが柔らかくなったという。

二十一診:2015・12・16(水曜日)11時10分
経過:左胸がたまにキューっというような痛みがあると言う。痛みの種類が変わってきたと言う。
診察:𦜝傍診では心包と脾の反応がある。
治療:季節は巡り、終之気である。脾を中心とみて配穴を決める。

   湧泉(-)陽陵泉(-)大敦(-)厲兌(-)
   商丘(G)~陰陵線(S)、太白(G)~豊隆(S)、三里(-)

三十診:2016・2・17(水曜日)11時半
経過:左胸の灸痕から良く膿が出たとのこと。胸の奥が痛いと言う。
診察:𦜝傍診では腎に反応。腹診では脾と肝の反応が見られる。
治療:季節は初之気。時邪は風、病藏は腎とみて配穴を決める。

   大敦(-)至陰(-)然谷(-)
   太谿(G)~湧泉(S)、太谿(G)~飛陽(S)、豊隆(-)

三十九診:2016・4・20(水曜日)13時50分
経過:
4・18(月曜日)病院の診察の結果、しこりが大きくなっているので、(6月をめどに)手術をしましょう、と言われた。しかし、6月は友達とオーストラリアに旅行に行く予定があるので、6月以降で涼しくなってからと6月の手術は断ってきたと話された。あくまでも、手術は受けたくないようであった。
診察:今日は腹診、𦜝傍診とも反応が見当たらない。
治療:季節は二之気である。時邪は熱、病藏は腎とみて配穴を決める。

    少衝(-)内庭(-)太白(-)通谷(-)
    湧泉(G)~然谷(S)、太谿(G)~飛陽(S)、豊隆(-)

その後も週一回で治療を続け、予定通り6月に十日間程のオーストラリア旅行に出かけた。
そして旅行を終えて6月20日にMRIの検査を受けた。

四十六診:2016・6・21(火曜日)11時
経過:
MRIの結果、癌が消失。しかし、医師は前の写真と比べて不思議そうな顔をして、別の医師を呼んできて二人で何やら話込んでいたという。「手術はどうしましょうか」と尋ねたら、「しばらく様子を見ましょう」と言われた。患者さん自身も俄かには信じられないようで、最初に癌を診てもらった近所の病院で再検査をしてきた。そこの医師も「そんなことなら是非診せて欲しい」と言っていたそうである。そこの検査でもやはり癌は消失して見当たらなかったがいうことであった。
診察:左胸のしこりは触診に因っても感知する事はなかった。

四十七診:2016・6・29(水曜日)11時
経過:本人の希望により、今回を最後に施術を終了した。

乳癌が一年も満たない期間で、消失した治験例である。ちなみに患者さんは、東村山市の当院まで東京都の蒲田から片道二時間弱の時間をかけて毎週、来院された。本人の強い意志がなければこの結果もなかったものと思われる。西洋医学の治療を一切受けないで、がん治療をするという事は現代ではかなり勇気のいることだと思います。一般的には西洋医学的な治療と並行して鍼灸治療を受ける例は多々あると思いますが、結果は余り良好なものとは言い難いのが現状ではないでしょうか。

患者さんは、施術終了後、一年を経過しましたが、相変わらず旅行や冬にはスキーなどをして楽しんで生活しているようです。2015年から2017年までの2年間、そして今後の人生、手術をした生活としなかった生活がどれほど違ったものになっていたか、想像してみてください。

2017・10・17(火曜日)記

7.【うつ病】

症例:男性、昭和39年生(52歳)
初診:2017・1・30(月曜日) 
主訴:うつ病

経緯:
去年(2016年)6月から不眠になり、それから精神的におかしくなった。それでも頑張って会社には行っていたが、9月になって耐え切れず病院に駆け込んだ。それから投薬が始まったが、すぐに改善するわけでもなく、10月からは会社にも行けなくなったという。車で通勤しているのだが、会社に近づくと吐き気をもよおすというか、実際に吐いた事もあったそうである。そして12月から休職となり、今年になってから病院も変えたと言う。
現在の役職は部長(5年目)、帰宅は毎日10時、11時だという。所謂仕事人間である。去年1月から社長(族会社)が替わり、色々意見が食い違い、精神的なストレスが溜まったのが原因と考えられる。

診察:八虚診:右の心、左の脾、右の腎に反応。
   𦜝傍診:肺と肝に反応。
   腹 診:腎に反応。
   背候診:右膀胱経に強いハリがあり、本人も自覚がある。
       頸、背、腰まで一本のすじが出来るように痛いという。

治療:季節は初之気である。診察の結果、時邪は風邪であり、病藏は肺とみて、治療を組み立てた。

   鍼:大敦(―)少沢(-)少府(-)商陽(-)
     尺沢(G)~少商(S)導通、太淵(G)~偏歴(S)導通、上巨虚(-)
     肺兪(+)、肝兪(+)、右(天柱、風池、完骨、百労)に寸三1番のステンレス鍼の置鍼。

以上で初回の治療を終えた。

二診:2017・2・6(月曜日)2時
経過:身体の方は頸、背は楽になったが、今日は右の腰が一番気になる、という。
   今週は二回くらい、朝まで良く眠れたと喜んでいた。
診察:𦜝傍診:反応なし。
   腹 診:腎と脾に反応。
治療:初診と同じ。

五診:2017・2・27(月曜日)2時
経過:睡眠はほぼ改善された。毎日朝まで眠れるという。それに従って気分も晴れてきたと言う。
   右半身の棒が入ったという感じもなくなったという。ただ頸、肩甲骨あたりはまだ気になるという。

六診:2017・3・6(月曜日)2時
経過: 先週は一回も夜中に目が醒めることもなく、よく眠れたという。
右半身の違和感もずいぶんと楽になり、気分も明るくなったという。
薬も1錠に減ったという。ただ昨日、親戚の家で芋を植えたりして、農作業を四時間手伝っていたら、
腰と気分が少しつらくなってきたそうである。しかし、五回の治療(約一か月)でほぼ不眠症は改善され、
うつ病も劇的に回復しつつある。

八診:2017・3・20(月曜日)2時
経過:
3・14(火曜日)に社長と会って話をしてきたという。気分的にも前と違って、随分楽な気持ちで話が出来たそうである。4・18(火曜日)から会社復帰が決まった。一か月くらいは時短で様子を見ながらの復帰ではあるが。肉体的には腰に少しハリを感じる程度という。バイクに乗って友人宅に行き、友人の山仕事を手伝ってきたそうである。大分気持ちが活動的になってきた、と話された。

診察:腹診、𦜝傍診、背候診とも目立った反応はない。
治療:季節は巡り、今日から二之気である。時邪は熱、病藏は腎とみて治療を組み立てた。

   鍼:少衝(-)内庭(-)太白(―)通谷(-)
     湧泉(G)~然谷(S)導通、太谿(G)~飛揚(S)導通、豊隆(-)

十三診:2017・5・1(月曜日)4時半
経過:仕事復帰してほぼ二週間が経った。ゴールデンウィーク後からは、五時半までの仕事になるという。
   睡眠は良好で薬はすべて止めた。薬を止めたら肉体的にも精神的にも非常にスッキリしたと話された。
   うつ病は完治したと言っても良い状態になった。

十六診:2017・6・7(水曜日)11時
経過:仕事は五時半までしているが、睡眠は良好で、精神的にも問題なく生活している。
   初診の主訴は改善した。今日は二週間ぶりの来院である。

十九診:2017・7・26(水曜日)11時
経過:人生の中で心身共に、今が一番体調が絶好調と話された。
   その後、月に一度、来院しているが、特に問題もなく、普通の生活に戻った様子である。

2017.10.25(水曜日)記

8.【五十肩】

症例:女性、昭和38年生
初診:2017.11.1(水曜日)14:00 
主訴:五十肩

経緯:三ヵ月前から右の肩関節に違和感があり、段々と痛みが出てきた。
   病院に行ったら、肩関節に石灰が付着しており、所謂五十肩と診断されたと言う。
   病院では痛み止めの薬とシップを処方された。しかし、先週の土日から激痛がおこり、
   夜も眠れないし、じっとしていても痛くて何も出来ないと言って来院した。

診察:八虚診:特に反応なし。
   𦜝傍診:肺に反応。
   腹 診:心に反応。

既往歴:ケガなどもなく今まで健康に暮らしてきたようである。身体的には、特に問題もなさそうである。

治療:季節は五之気、診察の結果、血脈の問題ありとみて、病因は燥邪、病藏は心とみて治療を組み立てた。

   鍼:少商(-)崑崙(-)陰谷(-)陽谷(-)
     神門(G)~霊道(S)、神門(G)~支正(S)、上巨虚(-)
   灸:右肺経、大腸経上腕部の圧痛点と手三里に透熱灸。以上で初回の治療を終えた。

第二診:2017.11.4(土曜日)17:45
経過:肩関節、上腕の痛みはなくなり、うずきもなくなったという。
   夜の睡眠も問題なく、可動域も大分改善された。九割方良くなったと言う。

診察:𦜝傍診:心に反応。
   腹 診:特に反応なし。
治療:鍼:前回と同じ。
   灸:右上腕部の圧痛点(肺経、大腸経)、四か所に透熱灸。

次回、十日後に予約を入れて帰ったが、一週間後に電話があり、完治したようなのでしばらく様子をみたいと、断りの知らせがあった。

2017.11.18(土曜日)記